#新規事業開発 2024/7/23更新

新規事業の種を磨くアイディエーションメソッド-強烈な原体験がなくても事業は創れる-

新規事業の種を磨くアイディエーションメソッド-強烈な原体験がなくても事業は創れる- 新規事業の種を磨くアイディエーションメソッド-強烈な原体験がなくても事業は創れる-

新規事業はセンミツと呼ばれるように、成功確率が低いものです。

中小企業庁の「中小企業白書2017」によると、新規事業に取り組んだ企業のうち「事業が成功した」と回答した割合は約28.6%に留まり、さらにその中で経常利益率が増加傾向にあると回答した企業は約半数に過ぎないというデータもあります。

また、新規事業の輩出プログラムとして有名なリクルートの『Ring』でも、毎年1,000件ものエントリーから最終的に通過するのは4-5件に過ぎないという事実も、新規事業の難しさを如実に物語っています。

経済情報プラットフォーム「スピーダ」は、2,000社を超える企業の中で、新規事業開発を担当する多くのビジネスパーソンの方々にリサーチプラットフォームとして活用されている他、これまでに新規事業開発にまつわる数多くのセミナーを開催してきました。そんな中で、大多数が悩んでいるのが、新規事業のアイディエーションからPoCまでの仮説検証サイクルの作り方です。

センミツと言われる中で潜在ユーザーのニーズを発見し、そのニーズを満たすアイディアを生み出し、そのアイディアの確からしさをPoCで確認していく仮説検証サイクルを構築するのは非常に難しいです。

そこで、今回は事業化までのフェーズで悩みを持たれている新規事業開発者の方々に向けて、①新規事業のアイディエーション(本記事)②『「師匠」と「弟子」の関係で本音を引き出す~新規事業の仮説を確信に変えるN1インタビューの進め方~』(後日公開予定)③『新規事業の落とし穴“PoC沼“から抜け出すヒントとは?』(後日公開予定)について、それぞれの専門家にお話を伺いしました。

Speaker

川上 裕太郎

川上 裕太郎

神戸大学卒業。株式会社ニトリに入社。実店舗における数値管理・業務改善・組織開発や、関西の新規大型店舗の立ち上げを経験。1億円の削減となる全社導入のシステム提案及び採用、新卒採用の広報活動、ロジスティクス分野へ出向し物流の最適化にも従事。2016年、エムスリーキャリア入社。経営支援事業部・医療コンサルティンググループに所属。全国の医療現場を飛び回り新規事業開発に従事。人事コンサルにも長く携わり採用戦略策定、実行支援。地域医療へむけて医療機関の経営改善に着手。その後、社内の新規事業自体の組織開発や事業部自体のグロースに努める。 自身の経験から、企業の中から新規事業を生み出すことの意義を強く感じ、2018年11月に株式会社アルファドライブに入社。

原体験を元に、Willを育てる

――新規事業のアイディアを考えるときに最も重要なことは何ですか?

新規事業が既存事業と一番違う点は、「まだ目の前に何もない」ということです。商品もなければお客さんもいなければ、もちろん売上も立っていない状況です。

「何もない」ということは、逆にあるのは志ぐらいだとも言えます。

新規事業を進める中では、「やっぱこうじゃなかったな」とか、顧客から「このプロダクトは全然いらないと言われちゃったな」とか、暗闇の中を歩く時間が多いです。

そんなときに、せめて自分の意志だけは強くないと物事が進みません。

自分の意志を強くするためには、原体験化が重要になってきます。

たとえば、「最近ドローンのニュースを見たので、ドローンを使って何かやろうかな」と思っていると、それはまだ自分ゴト化も原体験化もされていません。最近のトレンドから引っ張ってきただけなので、困難に遭遇したときに、途中で心が折れてしまいます。

――原体験が意志を生むということですか? つまり、最初から強い意志がなくても良いということでしょうか?

最近流行っているトレンドの中から新規事業の種を見つけるというライト兄弟が「絶対空を飛ぶんだ」と言っていたぐらいの強い意志が最初から必要かというと、新規事業のアイディエーションの時点で、意志の大きさはそこまで重要ではありません。

起業家の伝記や記事を読むと、圧倒的な志のもと、起業して社会を変えてやろうと思ったという大きい話が書かれていますが、後天的に自分の人生をストーリーテリングして、さらに編集も加わって大きく見えるケースもあります。

実際に起業家たちの本音を聞いていくと、最初からそんなに強いWillを持っていないことのほうが多いです。

――Willは育てるものなんですね。

大前提として、うまくいくのは事業の成長とWillの成長が比例している人です。

「ある人から課題感のある話を聞いた」くらいの着想だったWillの人が、アイディアを作っていく中で、困っている顧客に出会ったり、有識者に出会ったりして、だんだんと当事者意識が芽生えていきます。

さらに、事業開発をする中で、事業のブラッシュアップもWillのブラッシュアップも起こります。

アイディエーションの5つの型

――原体験の重要性がよくわかりました。一方で、実際のアイディエーションはやはり難しいという声を聞きます。何か型があるものなのでしょうか?

新規事業の種は「エピソード型」「お仕事型」「メディア/トレンド型」「フレーム型」の4種類と既に自分ゴト化できている「マイエピソード型」の計5種類のいずれかで着想しましょう。

それぞれ解説しますと、圧倒的な課題を持ってる誰かに出会う「エピソード型」、日々の仕事の中での課題感から見つける「お仕事型」、ニュースやトレンドから見つける「メディア/トレンド型」、SDGsのように既に社会課題として顕在化している枠組みを用いる「フレーム型」です。

上の4種類(「エピソード型・お仕事型・メディア/トレンド型・フレーム型」)は下にいくほど​​原体験化からはまだ遠く、Willもまだ醸成されていないことが多いです。

入口はどこでも良いのですが、「現場」と「本場」を行き来しながら、強いWillに昇華させていくことが重要です。

――「現場」と「本場」についてもう少し具体例を交えながら教えてください。

たとえば、自分がペット関連のニュースをよく見ているとします。 

その場合、行く場所はペットショップ、ドッグラン、ペット可のマンション、保健所などがまさに「現場」になります。

一方で、ペットに関する研究をしてる大学の先生を訪れたり、ペットのスタートアップを立ち上げている社長と会って喋ったり、あるいは「ペットテック」のようなエキスポに行ってみることが「本場」になります。

社内の異動で新規事業担当になったものの、何から手をつけたら良いかわからない場合は、入口はどこでも良いので、興味や自身のWillを可視化して、とにかく「現場」と「本場」を行き来してみてください。

「アイディアが湧かない」と言っている人ほど、企画会議を開いて、ポストイットを貼っていくことをやったり、調査会社に丸投げしたりするケースが多いように思います。

――なるほど。「現場」と「本場」は行けば行くほど良いと思いますが、人の時間は有限です。どれくらいの時間をかけるべきなのでしょうか?

「半年後に起案しなさい」と言われている方と「1年後に起案しなさい」と言われている方では、与えられている制限時間に差があります。

なので、ミッションのリミットから逆算することでアイディエーションに何日くらいかけても良いか弾くことができます。 

たとえば、半年後に部長に対して500万の予算申請で、このぐらいのアイディアの粒度感のものを5分でプレゼンできるように持っていけば良い、というミッションになっていると、逆算で2ヶ月ぐらいはアイディエーション探索できることが見えてきます。

アウトプットすることで、アイディアを育てる

――「現場」と「本場」を行き来しながら、最初のアイディアをブラッシュアップして、Willを醸成していくということですね。このプロセスをうまく進めるためのコツはありますか?

自分が思いついたアイディアをいろいろな人に話すことが重要です。

これには4つのメリットがあります。

1つ目は、自分のアイディアが言語化できることです。

たくさんの人と話すことによって、漠然とモヤモヤしているものが洗練されていくので、自分のアイディアをうまく言葉で表現ができるようになっていきます。

2つ目は、「宣言」です。いろいろな人に「〇〇をやる」と言うことで当事者意識の芽生えになります。

3つ目は、自分が「〇〇をやりたい人なんだ」とハッシュタグ化されることです。ハッシュタグ化されることで、周りがあなたを◯◯をやりたい人ということを認識するので、面白いくらい関連する情報が自分に入ってきやすくなります。

たとえば、私は社内でアート系の事業を立ち上げようとしています。自分には「#アート」というハッシュタグがついているので、社内外含め多方面からイベントやアートの有識者に繋いでもらえることがとても増えました。

4つ目は、話した回数でWillが醸成されることです。

たとえば、フードロスの事業をやる時に、規格外の野菜で困ってる農家の人と喋れば喋るほど、「自分が何とかしてあげなければ」というように自分のWillを鼓舞してくれます。

――アイディアの言語化、大事そうですね。このWillを鼓舞し、アイディアを育てていくプロセスのなかで、落とし穴はありますか?

行動した人にお伝えしたいことが2つあります。

1つは「画期的なアイディア」を目指さないことです。

これはパラドックスみたいな話なんですが、アイディアの言語化は大事なのですが、容易に言葉にできたり、表現できたりできるということは、相手が容易に理解ができるということなので、その時点で、実は画期性が落ちてしまっているんです。

みなさんが持っているiPhoneで例えましょう。

iPhoneは強いて言葉で表現するとすると、当初のプロダクトは、「タッチパネル式携帯電話」と表現できますよね。

今この日本語表現を聞いてどう感じましたか? 普通に聞けば、これは画期的に聞こえないのではないでしょうか。もし画期的に聞こえる人がいるのだとしたら、それは、iPhoneが、世界中の人が使っている最高の新規事業の1つとして世に広まっている今を知っているからです。iPhoneの登場前夜の世の中において、「タッチパネル式携帯電話」という言葉をどれだけの人が画期的だと言えたでしょうか。

つまり、画期的なアイディアが表現できると思っていること自体が間違いだということに気が付かなければならないということです。

新規事業に携わる人なら一度は味わったことがある感覚だと思いますが、「なんかありきたりだな」とか「もっと画期的なアイディアを考えないと」というように、焦燥感に駆られたことがあるかたは多いのではないでしょうか?、実は、それは新規事業の初期においては大して気にする必要はないことなのです。

あのiPhoneですら言葉にしてみると画期的ではないことがそれを物語っているので安心してください。

――アイディアの良し悪しはどう判断すれば良いでしょうか

大前提ですが、スタートアップも新規事業も多産多死が原則です。

何度もアイディアを考えて、仮説検証を行って、プロダクトを創っての繰り返しです。

1個のアイディアだけを磨き続けるのは失敗しやすいパターンで、例えば、10個のアイディアを並行で進めるなどのほうがおすすめです。

10案の検討してるうちに、顧客のリアクションが良いものだったり、課題の再現性が高いものだったり、など10案のアイディアにだんだん色がついてくるので、その中でどれを優先するかを自分のWilとも向き合いながら決定していきます。

――アイディエーションは5つの種類に分類されますが、アイディア着想の入口よりも、そのアイディアを「現場」と「本場」を行き来しながら原体験化することが何よりも重要ということがわかりました。本日はありがとうございました。

【ご参考資料】

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