#新規事業開発 2024/7/23更新

新規事業の落とし穴“PoC沼“から抜け出すヒントとは?

新規事業の落とし穴“PoC沼“から抜け出すヒントとは? 新規事業の落とし穴“PoC沼“から抜け出すヒントとは?

新規事業を進める際、画期的なアイディアに飛びつき、仮説検証を飛び越えてプロダクト開発に進んでいませんか?

あるいは、PoC(概念検証)そのものが目的化してしまい、検証やサービスのブラッシュアップがうまく進まずに時間と費用だけが膨らんでいく状況になっていませんか?

これらはPoCフェーズにおいて、よくある落とし穴だといえます。

本記事では、これまでさまざまな大企業の新規事業開発を推進してきたAlphaDrive社の川上裕太郎が「事業の成功確度を高めるPoCの進め方」を解説します(編集部)。

Speaker

川上 裕太郎

川上 裕太郎

神戸大学卒業。株式会社ニトリに入社。実店舗における数値管理・業務改善・組織開発や、関西の新規大型店舗の立ち上げを経験。1億円の削減となる全社導入のシステム提案及び採用、新卒採用の広報活動、ロジスティクス分野へ出向し物流の最適化にも従事。2016年、エムスリーキャリア入社。経営支援事業部・医療コンサルティンググループに所属。全国の医療現場を飛び回り新規事業開発に従事。人事コンサルにも長く携わり採用戦略策定、実行支援。地域医療へむけて医療機関の経営改善に着手。その後、社内の新規事業自体の組織開発や事業部自体のグロースに努める。 自身の経験から、企業の中から新規事業を生み出すことの意義を強く感じ、2018年11月に株式会社アルファドライブに入社。

新規事業におけるPoC(Proof of Concept :概念検証)とは

――まず最初にPoC(Proof of Concept / 概念検証)の概念・定義を教えてください。

川上裕太郎(以下、川上):PoCは日本語でいうと「概念検証」になります。新規事業の文脈においては、まだ仮説であるアイディア、とくにソリューション以降のパーツを検証することを指すことが多いです。

前提として、新規事業開発自体が仮説検証の積み重ねで進んでいくのですが、新規事業開発のある特定フェーズから、プロトタイピングでないと検証ができなくなるタイミングがやってきます。そのあたりからPoCという言い方が多くなる印象ですね。

――具体的にどのフェーズからプロトタイピングが必要でしょうか。 

川上:解決策仮説を検証するフェーズからですね。

「こういう課題があるんじゃないか」「こういう顧客がいるんじゃないか」と顧客候補へ仮説検証するフェーズにおいては、ヒアリングという手法で仮説検証ができます。ただ、ヒアリングはこうした顧客検証、課題検証あたりまでが主流なので、手元に実物(プロトタイプ)がないと、顧客のリアクションがわからないタイミングがやってきます。

そこが解決策仮説検証であり、プロトタイピングが登場するパートです。

一方で、提供価値やソリューションを顧客に味わってもらうのはヒアリングでは難しいです。

たとえば、「どこでもドアってどう思います?」というヒアリングはできますが、「いいですね」で終わってしまい、検証としては不十分です。

実際どこでもドアを目の前に見せてあげたり、イメージが伝わるムービーを見てもらうことで初めてリアクションが取れます。これで検証のレベルが上がります。これがプロトタイピングの入り口です。

プロトタイピングの進め方と6つのレベル

――プロトタイピングには、紙芝居のようなものから実際に動くものなど、様々なレベルが存在します。 どれから始めれば良いでしょうか?

川上:本を読んだり記事を調べたりするほど、プロトタイピングやPoCの方法に迷いますよね。検証の方法は6つにレベル分けされると考えています。

川上:レベル1はペーパー・紙芝居やムービーで検証できるものです。特徴は作業量が最も少ないこととすぐ修正できることです。まだソリューションやサービスが不確定な時期であればあるほどレベル1で検証するべきです。

レベル6に近づくほどMVP(Minimum Viable Product)という概念なので、本番のプロダクトに近いという考え方です。

究極のプロトタイピングは、本物のプロダクトと全く同じものを触ってもらうことです。ただ、なぜそれをやれないかと言うと、「人」「時間」「金」がないからです。

逆に時間とお金と人件費をいくらでも使っていいのであれば、本番相当のプロダクトを作って検証すれば良いのですが、そんな環境は誰も持っていないですよね。

とにかく重要なことは、できる限り作らず、できる限り最小工数で進めることです。

――レベル1からレベル2に移行するときの基準はありますか? 

川上:ポイントが2つあります。

1つ目のポイントは「期限からの逆算」です。

会社によっては事業化しなければいけない期限が決まっていたりします。その場合は、逆算する形でプロトタイピングに使える時間を弾き出します。

2つ目のポイントは、検証の限界を察知することです。

新規事業の検証はさまざまな方法でおこないますが、その手法ごとに相性の良い検証方法があります。先述のヒアリングからプロトタイピングに移ったのと同じように、ペーパー・紙芝居やムービーだけでは検証できない項目にぶち当たったら、次のレベルに進むというイメージです。

たとえば、ペーパー・紙芝居やムービーはどこまでいってもイメージ上の体験でしかないので、顧客への提供価値の検証レベルを高めたいのであれば、レベル3などに移行し、世にある既存サービスを組み合わせて、疑似体験の度合いを高めます。

FacebookやLINEを用いればメッセンジャー機能はできますし、各種キャッシュレスサービスを用いれば、決済機能の開発も現時点では不要です。代替で味わってもらうイメージです。

提供価値を測るキーワードは「再現性」 

――レベル1からレベル6を通して、N1に刺さる提供価値を探っていくということですね。N1に刺さることは重要だと認識していますが、N1なので「外れ値かもしれない」と少し不安になります。

川上:N1に刺さる提供価値を創ることは超重要なので、まずはここを目指します。

その上で次は「再現性」がキーワードになります。プロダクトにすごく価値を感じて下さった方が外れ値じゃないかを検証する作業が必要です。

これは研究の考え方と一緒です。「この環境下で、この物質とこの物質を混ぜると〇〇という化学反応をしたが、違う状況では起こらない」となると、再現性がないということになります。それと一緒で、「〇〇という顧客には刺さったが、他の顧客に刺さるかどうか」を検証する作業があります。

経験則では10人ぐらい聞いてみると、さまざまな顧客のシチュエーションについて実験できたという状況になり、再現性が出てきます。

10人に聞いてみると、「こっちの4人はすごい刺さったけど、残りの6人は微妙だったな」と濃淡が見えてきます。

次はすごい刺さった4人に対して、もう少し深ぼってインタビューをしてみたり、4人の属性に似た方を探してみたりして、さらに広げていきながら、外れ値でないことを検証していきます。

顧客インタビューの注意点

――インタビューの時に注意しなければいけないことはありますか?

川上:顧客のリアクションを見誤ることは一番避けなければいけません。 

「自分が作った最高のプロダクトだから、顧客にハマるに違いない」と思ってしまうと、良いリアクションだけ拾ってきてしまいます。

たとえば、顧客が10喋ったとします。そのうち、2〜3の自分にとって都合の良いリアクションのところだけを切り取って拾ってしまい、残りのネガティブコメントや伸び代のコメントを捨ててしまいます。極端なかただとそもそも都合が悪いところは聞こえてすらいなくてなかったことにしてしまうこともあるくらいです。本当はその改善ポイントに着目して、プロダクトを磨いていくべきです。

このような事象を起こさないためにも、自分以外の第三者視点を取り入れるという意味で2人1組でインタビューをすることをおすすめします。

――10人にインタビューしてみると、再現性がでてくるとのことでした。次は人選についてお伺いします。PoCフェーズでは、どういった状況の方を対象にインタビューを進めていくべきでしょうか? 

まず、自分たちがここじゃないかという仮説を立てた顧客のところに当たるのが一丁目一番地です。

そして、リアクションが良かった見込み顧客、悪かった見込み顧客に分岐させます。 

良かった場合は、それを一つのターゲットセグメントにすれば良いです。そして、次はこんな人にはまるんじゃないかあんな人にはまるんじゃないかと顧客拡張の路線に行くルートです。

リアクションが悪かった場合は、3パターンに分かれます。

1つ目は本当に目の前の顧客候補に課題がないので、ピボットした方がいいというパターン。2つ目はたまたまインタビュー対象者が特殊事例だったパターン、すなわちまだ自分の仮説が合っている可能性は残っているパターンです。そして、3つ目は、ヒアリングがうまくいっていないパターンです。シンプルにスキルが足りないケースですね。意外とヒアリングは簡単なようで奥が深いので。

このようにインタビュー対象者のリアクションで条件分岐させて進めていきます。

2,000億企業「Dropbox」のPoCとは

――これまでの話をお伺いしていると、PoCの進め方には一定フォーマットは存在するものの、正解はなさそうに見えました。PoCフェーズで面白い取り組みをしている事例はありますか?

ファイルストレージサービスのDropboxはよく取り上げられます。

彼らはムービープロトタイピングを徹底しました。

サービスが何もない状態で「こういうサービス、どうでしょう?」という動画をYouTubeに投稿したんです。

その動画には「こんなサービスは誰も使わないという」ネガティブコメントがたくさんついたそうです。彼らはそのコメントを1つずつ丁寧に拾いました。そしてプロダクトを作りはじめたのかというそうではなく、改善を加えた動画をまたアップしました。

それらを繰り返していると、だんだんコメント欄の様相が変わってきたわけです。「これを待ってました!ダウンロードリンクはどこですか?」というポジティブコメントが増えていったそうで、そこで初めてコードを書いていったという話があります。

経営層を魅了するための5つの検証軸

――面白いですね。最後にPoCフェーズではどのような項目を検証していく必要があるか教えてください。

事業によって変わるので全てに共通するわけではないのですが、検証すべき項目は5つあると考えています。

1つ目は、そもそも仮説で立てた提供価値を感じてもらえるのかという「ソリューション検証」から始まります。

その提供価値を見込み顧客に喜んでもらったら、2つ目はお金を払ってでも欲しいかという「マネタイズ検証」をします。

課金はされたが、事業として回らないとサービスを運営できないので、ちゃんと回せるかという検証をする「オペレーション検証」が3つ目です。

4つ目は、「マーケティング検証」です。顧客が事業計画の予定通り獲得していけるかということをあらゆるABテストを通して検証していく工程です。

たとえば、Facebook広告やインスタ広告を出稿した時に獲得単価が〇〇円なのでLTV/CACは合いそうですといった検証です。

最後は「テクノロジー検証」です。技術面や法律面でみた時にそのソリューションが実現可能なのかを検証します。主に実現できるかどうかのテクノロジーが論点になることが多いですが、事業領域によっては法務面なども優先度が上がってくることが多いです。

これらを検証できると投資家・経営層への魅力が高まると思います。

――検証方法はレベル1からレベル6までの6段階存在していますが、仮説検証の初期フェーズにおいてはレベル1のやり方でとにかく最小工数で進めることが重要であるということ、そして、検証しなければいけない項目は5種類あり、PoCフェーズで全て検証できると投資家・経営層への魅力が高まるということでした。

これらを頭に入れながらPoCを進めることで、PoCが目的になることが防げたり、無駄な時間や費用を使わずに事業化に進める気がしました。

本日はありがとうございました。

【ご参考資料】

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