#経営企画 2024/7/23更新

米国の“超”合理的な経営企画とはー日米スタートアップ経営企画の経験者が語るー

米国の“超”合理的な経営企画とはー日米スタートアップ経営企画の経験者が語るー 米国の“超”合理的な経営企画とはー日米スタートアップ経営企画の経験者が語るー

経営企画パーソンとして珍しいキャリアを歩んだ人物がいます。これまで、米国のスタートアップ2社(金融機関向けAML/KYC管理SaaSのAlloy | コンプライアンス管理SaaSのThemis)と今なお日本のスタートアップで経営企画として活躍するNstock社の小澤慧さんです。

日本の経営企画は「何でも屋」と称されるほど、業務内容が多岐に渡り、同じ経営企画でも担当業務が180度異なることもよくあります。

小澤さんのご経験を伺っていると、米国の経営企画においても「何でも屋」であることに代わりはありませんが、より成果主義であること、レイターステージ以降はよりRole and Responsibilityが明確になり、「何でも屋」からスペシャリスト化されていく点が、日本の経営企画とは顕著に異なる部分です。

スタートアップの経営企画と大企業の経営企画で役割は違うとはいえ、小澤さんが経験された米国の経験や学びをインストールすることで、経営企画としてパワーアップできる要素もあるのではないでしょうか。

日米のスタートアップにおける経営企画的な業務や評価方法の違いについて、赤裸々に語っていただきました。

Speaker

小澤 慧

小澤 慧

1992年生まれ。三菱商事の新産業金融事業グループにて、ファンド投資業務や投資先支援等に携わった後、在NYの金融機関向けAML/KYC管理SaaSのAlloy(シリーズC)と、同じく在NYのコンプライアンス管理SaaSのThemis(シード期)でChief of Staffとしてセールス、マーケティング機能の立ち上げを経験した後、Nstockに入社。ペンシルベニア大Wharton校にて、MBAを取得。

アーリーステージにおける経営企画の役割は日米変わらず「何でも屋」

――米国での経営企画のキャリアについて教えてください。

アメリカのSaaS企業2社で経営企画として働きましたが、よりレイターステージで経営企画の役割が明確に定義されていた、シリーズCのAlloy社に絞ってお話をしますね。

Alloy社は従業員が200人くらいの組織で「Fintech×SaaS」の事業を行っています。金融機関やFintechのスタートアップ向けに、口座開設・貸金・送金業務の際のお客様の身元確認やスクリーニングをお助けするSaaSを提供している会社です。

​​――米国のAlloy社ではどのような役割を担っていましたか?

私は、ビジネスオペレーションズ(通称BizOpsと言われる役割)を担っていました。米国の場合、経営企画という名前ではなく「ビジネスオペレーションズ」が馴染みのあるタイトルです。

ビジネスオペレーションズの基本的な役割は、有限な資源(データ・ヒト・カネ)を最大限に活用して、会社をゴール(成長)に向かってより効率的に導く航海士、のように例えられるかもしれません。

アニメの『ワンピース』でいうと戦う人、ご飯を作る人、船の掃除をする人など、それぞれの人がそれぞれの役割を担っていると思いますが、みんなの努力が正しいベクトルにちゃんと向いているか? 目的地に向かって最短距離を走っているか? みたいなところを確認する役割かなと思っています。

​​――日本のスタートアップの経営企画も同じような役割でしょうか?

スタートアップの経営企画的なポジションが「何でも屋」であることは、日米で大きな違いはないと思います。

強いて挙げるとすると、アメリカで働いていた時と違う点は、より以下の3つを意識して動いていることかもしれません。

  1. 中長期的な時間軸

  2. 全体感

  3. 言語化、数値化して理解し、チームに共有すること

①「中長期的な時間軸」で考える。目の前の課題に対して最適解を考えるだけではなく、近い将来、できれば1.5年とか2年先のことを見ながら意思決定していくこと。

②単一のプロダクトではなく、2つ目、3つ目のプロダクトも合わせた、会社として全体最適って何だろうという「全体感」。

③直感で物事を捉えるのではなくて、できるだけ直感で感じたことを「言語化、数値化して理解し、チームに共有すること」を意識しています。

というのも、アメリカ人の国民性なのか、私が働いていた会社では、戦略的に物事を考えることが得意な人が多かった印象がありますが、Nstockの宮田さんや高橋さんをはじめ、Nstockの初期メンバーは「アートを創造する天才タイプ」と「アートを形にする実行力タイプ」が多い。

なので、自分が組織に対して何ができるかを考えた結果として、お話した3つの点を意識するようになりました。

日米の違いは『成果主義』か否か

――役割としては中長期かつ全社的な目線を意識しながら業務を遂行していくことで大きな違いはなさそうです。業務内容はフェーズや日米で違いはありますか?

まずは米国での業務内容ですが、会社として3つの戦略的な柱を持っていました。

  1. 国際展開を進める

  2. 1社当たりの売り上げを最大化

  3. マルチプロダクト戦略を展開

この3つの戦略を達成するために、どのようなKPIが必要で、どのような施策を打つべきかを考えて実行していきました。

時には現場と具体的な施策の計画を作ったり、うまくいってない場合はその現場に入って、一緒にその施策を見直したり。逆にうまくいっている場合は、施策を体系化して他の部署に生かすということをやっていました。

この後、評価方法についても詳細をお話ししますが、最重要イシューに対して何をするべきか戦略を立てて、各部署と協力しながら実行し、とにかく成果を出していくことが重要です。

一方、日本での業務内容です。

私が所属しているNstock社はアーリーステージということもあり、取り組むべきプロジェクトは1ヶ月単位で変わっていきます。

海外スタートアップのリサーチをして、日本で同じようなプロダクトが生まれるのかを検討したり、将来的な事業計画の策定、10社ほどに提供している株式報酬SaaSを誰にどう売っていくかを考えるPMM的な動き、将来の資金調達をどうするかのストラテジックファイナンスの動きなど、やはりかなり幅広く担当しています。

日米の違いという観点では、2点あります。

1点目の違いは、プロジェクトのKPIだけでなく他チームの給与や報酬に関しても決定権があるということです。アメリカ独特の文化でいうと、担当する領域以外の仕事へのコミットはどうしても薄くなる人が多いように思いました。

会社として社員のコミットが適切な方向に向くように、経営企画は、自分が受け持つ戦略的な柱に関わるセールスやマーケティング、CSチームのKPIとRole and Responsibilityだけではなく、報酬の設計をかなり詳細に決めていました。

それぞれのKPIがうまく進捗すれば大きく報われますが、成果を出さない人に関しては、トッププレイヤーの半分程度しか(報酬を)貰えない人もいました。

担当がはっきりしない「落ちそうなボール」を進んで拾う文化が根付いている日本組織の経営企画とは、対照的かもしれません。

2点目の違いは、米国の場合はレイターステージになるとより専門化が進んでいくということです。セールス・マーケティング・カスタマーサクセス専門の経営企画的な動きをするRevenueOpsや、プロダクト専門のProductOpsなどがあります。

レイターステージになるほど、成果起点の「何でも屋」から、特定領域のスペシャリストへと求められるロールが変わっていくということです。

――米国は極めて成果主義であるとのことでしたが、評価の仕方についてもう少し詳しく教えてください。

評価は難しくて正解がないと思いますので、あくまでAlloy社はこうだったという観点でお話しますね。

何かプロジェクトをやるとなった時に、大元の目標を決めて「みんなでこの目標を達成しよう」とするだけではなく、そのプロジェクト目標の達成に必要なKPIを細分化していきます。このKPIは、マーケティングやカスタマーサクセスなどの関連部署ともアラインさせて、それぞれのKPIのオーナーを決め、責任の所在を明確にします。これらのKPI責任に対して、給与体系も決まっていきます。

ビジネス側のセールス、マーケティング、カスタマーサクセスだけでなく、BizOpsの給与もKPIに完全連動する形で決まります。このように、会社の目標や評価については極めて合理的に決まっていくことがほとんどです。

アメリカの経営企画で感じた凄さは「専門化」と「教科書のインストール」

――アメリカで経営企画としてキャリアを積んでこられて学びも多かったのではないでしょうか。日本の経営企画がパワーアップするためにどんなことを取り入れるべきでしょうか?

アメリカの経営企画のプロフェッショナルの人を見て、すごいなと思った点は2つあります。

1つは「専門化」。日米に関わらず、成功している人を見ても、キャリアにすごくエッジが立っているように感じます。

たとえば、私が尊敬している人は、投資銀行に入って、その後4社ほどストラテジックファイナンスを渡り歩いてきた方がいます。

「ストラテジックファイナンスはこうだ!」という意見を持っていて、会社からも「ファイナンスやユニットエコノミクスの話はこの人に相談すれば良い」という認知になっています。

米国では前述のとおり、Role & Responsibilityの明確化が進み、スペシャリストとしての成果が求められるので、自然とエッジの立ったキャリア形成を志向する人が多いですが、日本でも成功している人を見ると、高度な専門性をエッジに自身のキャリアを作っているケースが多いんですよね。

なので、専門化は日本・米国に限らず重要な観点だと思っています。

2つ目は、徹底的に「教科書のインストール」をすることです。

周りで成功していた人を見ると、積極的に発信をしているだけではなく、インプットの質と量にこだわっている人が多いように感じました。

とくにSaaSの分野については、あらゆる分野について言語化されていて、YouTubeやPodcastだけではなく、オフラインイベントを活用すると、かなり仕事に使える情報やノウハウをインプットできることが多かったなと思います。

私もNstockではいろいろと仕事が変化していくのですが、先々を想像しながら、将来的に必要になりそうな分野の本をとりあえず買い漁ることをやっています。

たとえば、「将来的にPMMの仕事がふってきそうだな」と思うと、PMの本を10冊ほど買ってとりあえず読んでいきます。加えて、ミートアップや集まりにも積極的に参加しながら、インプットをしています。

とにかく「教科書的な正解をどれだけ知っていて、いざ課題に直面したときに正解を踏めるようにしておこう」という意識している人が多かったように思います。

――日米のスタートアップで経営企画を経験される方は非常にレアケースなので学べることがたくさんありました。ありがとうございました。

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