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#新規事業開発 2023/6/1更新

まずは質より量!センミツの壁を乗り越えるアイデア創出法 実践!「トライアングル・リサーチ」で前に進める新規事業開発 vol.2

実践!「トライアングル・リサーチ」で前に進める新規事業開発 vol.2 実践!「トライアングル・リサーチ」で前に進める新規事業開発 vol.2

株式会社coto design代表取締役の石森宏茂さんを講師に迎え、事業会社における新規事業開発を着実に前進させる武器としてのリサーチスキルを全5回でご紹介する本シリーズ。

前回は、VUCA時代の新規事業開発に適した「トライアングル・リサーチ」についてお伝えしました。(vol.1 を見る

第2回は、新規事業開発の前工程におけるアイディエーション。
すなわち、アイデアをどのように仮説に置き換え、素早く検証していくのか。そして、営業戦略も同時に考えられるアプローチ方法についてお伝えします。

Speaker

石森 宏茂 氏

石森 宏茂 氏

株式会社coto design 代表取締役

新卒で株式会社ベネッセコーポレーション入社。法人営業、営業企画、経営企画、国内外の事業開発、M&A検討等に従事。2021年4月株式会社coto design創業。上場企業・スタートアップ企業・高等教育機関・NPO法人等に、新規事業開発伴走支援・経営戦略・事業戦略・営業戦略立案支援を提供。並行して、複数のスタートアップ企業に会社員として所属するパラレルワーカー。NewsPicksエキスパート。

そもそも“良いアイデア”とは

皆さんは「センミツ」という言葉を聞いたことがありますか。
アイデアのうち、事業化できるのは1000個に3個程度とよく言われています。また、事業化した中で成功できるのは30%程度と言われていますので、アイデアの数から逆算すると、成功確率は結果的に1000分の1程度というものです。

つまり、アイデアをたくさん生み出せるということは、新規事業開発において、重要なポイントのひとつです。
しかし、「良いアイデア」の生み出し方がわからない、アイデアは出せるけれど本当に「良いアイデア」かどうか判断する方法がわからないという方は多いように思います。

では、そもそも「良いアイデア」とはどのようなアイデアを指すのでしょうか。
新規事業開発においては、顧客課題を深く理解できていて(顧客課題の質)、その顧客課題を解決できるソリューションの質が高いものを良いアイデアと定義すると、わかりやすいと思います。

“良いアイデア”の作り方

いきなり良いアイデアがポンと思い浮かぶことは、ほぼありません。
一見すると悪い、よくわからないと思える「悪いアイデア(良いアイデアの糸口)」をもとに、顧客を特定し、課題を明らかにし、その課題のソリューションを考えていくうちに良いアイデアを形作っていくことが、新規事業開発においては大切になってくるのです。

その際、顧客特定ができておらず、顧客課題がわからないことも多いと思います。その場合は、顧客なしでアイデアを妄想することから始めても問題ありません。

考え方としては次のとおりです。
まだ顧客が明瞭でないアイデアをフェーズ1と設定して、これを初期仮説(案)とします。フェーズ2は、顧客課題が明瞭になった初期仮説(案が取れたもの)とし、検証を重ねながらフェーズ1から2へもっていきます。

事業会社の場合は、あくまでアプローチのひとつではありますが、既に事業があり、顧客がいるので、「自社ができること」から始めると考えやすいと思います。これが正解、ということではなく、あくまで考え方のひとつの例として捉えてください。

フェーズ1では顧客の話は一切出ず、たとえば、まずは自社の技術や最近のトレンドなどから初期仮説(案)を考えます。
最初の状態では正しいかどうかわからないけれど、議論を重ねるうちに(=初期仮説(案)の検証を重ねるうちに)この業界にこんな課題を持ったお客さまがいて、その課題には自社の○○が使えるのではないか、こんな事業がワークするのでは、と段階的に初期仮説の解像度をブラッシュアップしていきます。

考え始める切り口はなんでもありです。
スタートアップの場合は、何も無いところから世の中を眺めて、世の中にある誰かの“不”や“負”を見つけ、どこの業界でこんな課題があるみたいだ、この課題を解決しようという志から考え始めることが多いように思います。
どちらが良い悪いではなく、考え方のひとつとして参考にしてください。

初期仮説検討を進める4つのポイント

続いて、良いアイデアの種となる「悪いアイデア」の作り方をお伝えします。

アイデアを出すためにはインプットが何より大切ですが、次の4つがあるとフェーズ2の初期仮説は考えやすくなります。

  1. 我々は何者で、何がしたいかという根本的背景
  2. 新しい領域で戦うための最初の武器
  3. ソリューション検討のアイデアのタネ
  4. 初期仮説上の想定顧客と、その顧客がいる市場

顧客が特定できていない初期仮説(案)の場合は、まず1〜3の整理から始めると良いです。

ポイント1:我々は何者で、何がしたいかという根本的背景

まず一点目、我々は何者で、何がしたいかという根本的背景
特に事業会社においては、新規事業を立ち上げる際の制約であり、拠り所として、最初に考えることもあれば、一番最後に合わせにいくこともありますが、どちらにしても避けて通れないものです。

なぜかというと、リソースが無限に許される場合、新規事業は何でもできます。しかし、なんでも良しとされると、人は考えづらくなります。我々ができること、やるべきこと、社会に対して価値を発揮すべき領域を一旦閉じてあげるという意味でも、パーパスやビジョン・ミッション、経営方針で、会社としてやらないことを定義することが大切です。

他にも、目指すゴール。
ゴール設定も難しいのですが、具体的な判断基準の評価軸がないと仮説検証が進みません。 

例えば、5年後に売上100億、営業利益10億と言われたら、少なくとも売上100億を出せる市場に立地を取らないといけません。市場規模を測るとしても、シェア10%なら市場規模1,000億は必要で、かなり強いプレーヤーでなければシェア10%は厳しいので5年で実現するのは難しいだろう。であれば、いつ時点でこれぐらいの規模が必要で・・・と考えるうちに、1,000億の市場がないところは一気に仮説として切り落とせるわけです。

 一方、このゴールがないことも往々にしてあります。
その場合は、自分がFounderだと思って進めることです。
・どう考えたら、今検討している事業は自社でやる意義があると力強く言えるのか
・何が達成できれば、自社にとって価値があると言えるのか
・どの山の頂上に辿り着ければ、自社の中長期の成長に価値があると言えるのか
自分に問いかけ、事業を前に進めていくというやり方もあります。

しかし、特に事業会社で新規事業開発の多くが進まない背景の一つに、経営者もしくは事業責任者自身にそもそも新規事業開発の経験がなく、ゴールを描けない、描くことを知らないという点もあると思います。だからこそ、推進者がゴールを頭に浮かべておけると、後々、進めやすいと思います。

そして、最後は目的です。
新規事業開発を進めていくうちに、迷子になることもあります。自分もそうでしたが、迷子になったとき、つい「なんでこれやってたんだっけ」と言いたくなるんです。そのときに必ず立ち戻れるように、目的が何だったか言語化しておくことは大切だと思います。

新規事業開発の目的は様々ありますが、おおよそ以下の5つに分類できると思います。

  • 収益構築
  • 人材育成(新規事業開発を通じた結果的な人材育成)
  • 人材発掘
  • 文化醸成
  • 既存事業の次世代化(新規事業に取り組んだプロセスで出てきた副産物を既存事業へ活かす)

ポイント2:新しい領域で戦うための最初の武器

二点目は、新しい領域で戦うための最初の武器です。
そもそも新規事業なのに自社の優位性を使うのかという質問もありますが、必須ではありません。これも目的とゴール次第で、どれぐらいのスピード感を求められるかによって変わります。

企業の中に既に強みがあるのであれば、それをうまく糸口に使って進み出すことは大事です。もちろん既存事業で競争優位なだけであって、まだ見ぬ新規事業においては必ずしも優位に働かないケースもありますが、あくまでアイデアの切り口として活用することで、検討が加速することもあります。

ちなみに、競争優位性は以下のように分類できます。
競争優位性があるとは、技術力や設備、商品開発力、営業力などソフト・ハードなどさまざまなものがあります。
 
持ってない場合にも、作る、借りる・シェアする、買うといった方法があるので、新規事業開発部がM&Aを担っている企業もあります。つまり、M&Aで仲間にした会社の強みで事業を大きくしていくという考えにおいては、それも競争優位の一つなのです。

ただし、競争優位性を持っているのはあくまで既存事業です。
目の前の仕事で忙しい既存事業の協力を得ることは難しい場合もありますが、既存事業の人たちも、未来への投資は必要です。

まさに両利きの経営の世界の話になりますが、自分たちが考えている新規事業の挑戦で得られるこんな知見は、あなたたち既存事業の未来にこんな副産物を寄与できるというストーリーを描き、その未来に向かって一緒にできることを探ることも選択肢の一つだと思います。

ポイント3:ソリューション検討のアイデアのタネ

そして、三点目はソリューション検討のアイデアのタネです。
正直な話、最初のタネはなんでもありです。社長がこんなことしたいって言ってた。自分がこういうことを解決したくてこの会社に入った。既存事業のお客さまがこんなことを言ってた。競合他社がこういうことをやり始めたとかなど、最初の糸口は何でもありです。

真似もありだと思います。真似をして競合が増えることで市場は大きくなりますし、2番手の方が1番手の失敗を見て、打ち手を考えることもできます。もちろん先行プレイヤーを追い越す能力は必要ですが、そこを超える技術力があるなど何かしらの優位性があるなら、真似して攻めるのもありだと思います。

そして、このソリューション検討のステップにも、多くのインプットが必要です。
インプット方法は様々ありますが、例えば大規模展示会などに参加すると、その業界のバリューチェーンや業界構造を一気に把握できるので、私はよく行きました。その業界のビジネスや課題も見えますし、ここで名刺交換した人と仲良くなって、後に壁打ち相手になってもらうことなどもあります。

また、トレンドを追いかけるため、2週間に1度くらいは書店へ行って、新刊コーナーを見て回ることや、競合企業の新卒説明会を見ることも有益です。新卒説明会では未来に向けての取り組みなども語られるので、普段、なかなか表にでない企業活動を知ることができます。
 
他に参考になるのは、コンサルティングファームが出している特集やレポートです。
いわゆる『2023年最新テクノロジーマップ』のような予測も多いので、想像しうる未来としてインプットすると良いと思います。
 
最後に、既存のお客さまと話すこと。既存のお客さまとの会話は、目の前の既存事業の話がほとんどなので関係ない話はほぼありません。だから、営業担当と一緒に訪問する、新しいアイデアについてお客さまと雑談できる場所を用意してもらうのも一つの方法です。

ポイント4:初期仮説上の想定顧客と、その顧客がいる市場

最後の四点目、初期仮説(案)を初期仮説にするために、どこの誰が、なにで困っているのかを明らかにする方法については、次回お伝えしたいと思います。

参考Tips:フレームワーク活用

ここまで初期仮説(案)を検討する材料として、3つの点をお伝えしてきましたが、より仮説の幅を広げたい場合、フレームワークを使ってみることもおすすめします。

このタイミングで工数をかけて大変ではありますが、自社はできることは何か、外部環境のオポチュニティは何か、強みを可視化し戦略を考えることには意味があると思います。

皆さんは、PEST分析のアップデート版となるPESTLE分析をご存知でしょうか。

これは、最近、政治的要因と同じぐらい増えている規制要因を切り出した考え方です。
このPESTLE分析=外部環境となりますので、これをSWOT分析と掛け合わせて、政治的要因における機会と脅威に対する強みと弱み、経済的要因における機会と脅威に対する強みと弱みなど一つずつ整理していくことで、工数はかかりますが、規制が動く際のチャンスを見つけられるかもしれません。

本日のまとめ

色々とお伝えしてきましたが、今日のお話をまとめると初期仮説(案)の出力イメージは次のようになります。

初期仮説(案)の段階では、良いアイデアを生み出すための最初の入口として、まず上の図のような緩いアイデアを作ります。そこから色々な人に会って話をしたり、ワークショップをしたり、インタビューをしたりしながらブラッシュアップしていきます。

特にワークショップにおいては、発散しながら収斂させること。すなわち、みんなの手垢をつけて、知を結集することが大事になります。“三人寄れば文殊の知恵”ではありませんが、1人で考えず様々な人のアイデアを集めることが大切になると思います。

新規事業を実行していくうえでは、誰かが考えたアイデアをたたき台に議論するのではなく、関係者全員がアイデアを出し合い、みんなで考えて、みんなで絞って、みんなで決めたというプロセスが欠かせません

新規事業の推進者に必要なもの

そして、最後に新規事業を推進するリーダー、推進者に必要なものをお伝えしたいと思います。

まずは、たたき台です。わらしべ長者のわらしべを用意するのは推進者の最初の仕事です。叩かれ損になることも多いのですが、最初に入口を作る人が一番大事ですし、一番偉いと私は思っています。どんなアイデアでも良いので、ここはきちんと用意しましょう。

加えて、ファシリテーション力と、そのための他者理解、自己理解
職場だけでなく趣味などの社外活動なども含め、一緒に働くチームの人のケイパビリティと知見を理解しておくと、あの人は⚪︎⚪︎の領域に詳しいので意見を聞いてみよう、など前に進めやすくなります。

そして、他者理解という点では、期待値コントロールが重要です。
この人にどんなことを任せるといいんだろうか、それはどんな水準だろうかといったことをお互いにしっかり設定することが大切です。

うまくいかない場合、客観的に見て期待値が高いことが多いように思います。がっかりするのは、できると思っていたからがっかりするわけです。だからこそ、自分に対する期待値と、人に対する期待値のバランスを取りながら見るといいと思います。

以上、まだ顧客が見えない段階でのアイデアの出し方についてお伝えしました。

次回vol.3では、初期仮説の「案」を取るために、どこの誰が、どのようなことで困っているのかを明らかにするための「良い初期仮説へと辿り着くプロセス」をお伝えしたいと思います。

以上、まだ顧客が見えない段階でのアイデアの出し方についてお伝えしました。

なお、アイデア出し段階におけるSPEEDAを活用したリサーチ方法はこちらでご紹介しておりますので、合わせてご覧ください。

次回vol.3では、初期仮説の「案」を取るために、どこの誰が、どのようなことで困っているのかを明らかにするための「良い初期仮説へと辿り着くプロセス」をお伝えしたいと思います。