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#新規事業開発 2023/7/6更新

小さく速く!事業検証と営業戦略構築を両立するアプローチ 実践!「トライアングル・リサーチ」で前に進める新規事業開発 vol.4

実践!「トライアングル・リサーチ」で前に進める新規事業開発 vol.4 実践!「トライアングル・リサーチ」で前に進める新規事業開発 vol.4

事業会社における新規事業開発を着実に前進させる武器としてのリサーチスキルを全5回でご紹介する本シリーズ。

前回は、“良い初期仮説・アイデアを作るプロセス“についてお話しました。今回は“事業性の検証と営業を並行して進める方法“についてお話したいと思います。

Speaker

石森 宏茂 氏

石森 宏茂 氏

株式会社coto design 代表取締役

新卒で株式会社ベネッセコーポレーション入社。法人営業、営業企画、経営企画、国内外の事業開発、M&A検討等に従事。2021年4月株式会社coto design創業。上場企業・スタートアップ企業・高等教育機関・NPO法人等に、新規事業開発伴走支援・経営戦略・事業戦略・営業戦略立案支援を提供。並行して、複数のスタートアップ企業に会社員として所属するパラレルワーカー。NewsPicksエキスパート。

事業性検証のためのMVPの考え方

事業性検証を行うことは、あくまで手段であり、決裁者からヒト・モノ・カネを調達するために、裏付けとなる説得材料をしっかり用意する必要があります。

つまり、本当に想定する顧客にとって価値になっているのか、そしてどれくらいの価値なのか、世に出したときにどれくらいのリアクションが得られそうか、という決裁者からの問いに答える必要があります。自分自身が決裁者だったら、という視点に立ってみるのも大事なことです。

当然ながら既存事業に多くのリソースを割いている中で、本当にリターンが見込めるか分からない、そもそも不確実性の高い新規事業に投資をするためには、完璧なものではないとしても、事業性を検証する必要があります。

その事業性を形づくるものは、大きく分けると、3つあります。
それらがわかることで、ビジネスにできそうだ・難しそうだ、といった、「まず、やってみよう」と思うだけの判断ができるようになります。

会社の規模や、カルチャーにもよりますが、「目標を考えること自体が求められる」ケースがあります。とはいえ、新規事業は企業成長のひとつの手段でしかないので、会社の目標と、その中で自分たちがどこを求められているのかが分からないと、判断が難しいのも事実です。なぜなら、やらなくていいことを決めづらくなってくるからです。

そのためできるだけスタートの段階で、例えば、会社の大きな成長の中で既存事業がある。既存事業で10年後に1000億までいきたい。今800億で、200億をさらに伸ばさなきゃいけない。でもどう考えても既存事業で200億はいかないが、150億は既存事業でいく。では残りの50億は新規事業で何とか頑張ろう。50億作るってどういうことだろう。というように分解していけるとロジカルに進めていきやすいかなと思います。

「価値の証明」と「マーケティングの可能性の証明」に関しては、MVPを手法として使うことをおすすめします。

MVPとはなにか

MVP(Minimum Viable Product)とは、価値を感じることができる必要最低限最小限の製品サービスのことです。

新規事業開発はどうしても、1000個のうち997個は失敗すると言われていますので、初期の思い込みによって、ものすごく大きなものを作り、それが売れなかったら大問題です。そうならないように先に小さな失敗をたくさんしておくことで、取り返しのつかない大きな無駄や損失にならないようにすることが重要です。

したがってやるべきことは、検証すべきポイントを明らかにして、常に小さなプロダクトを世の中に出して、お客さまの声を聞いて直して出して、を繰り返すことです。

一つのサービスに機能や、使いやすさ、デザインなどがある場合、その機能の一部だけを切り出すのではなくて、ある価値を一通り体験しているものを切り出しましょう。ということです。

例として、移動という価値自体を考えながら、本当にこれでいいのかっていうのを行ったり来たりしながら検証するものを、このMVPという手法として使っていきます。
大事なのは初めから完成品を出さないということです。

概念だけだとわかりづらいので、少し解説をします。
例えば、お客さまのニーズが「移動したい」だったとします。そのニーズに対して、完成品としては車が一般的にイメージしやすいかと思いますが、下の図の上の段では、4になってようやく車で移動するという価値が体現されるわけですが、MVPはそうではなくて、下の段のイメージです。

移動という価値はずっとあるのですが、移動という価値に対して、足りないものの価値、例えば移動はできるけど方向は変えづらいからハンドルをつけようや、立ちっぱなしだと長く移動できないから、座るためのサドルをつけようというように追加していきます。

MVPには、よく使われているいくつかのアプローチがあります。
中でも、私がよく使っていたのは、以下8つになります。

一つは、「ランディングページ作成」。サービス紹介LPを作ってしまって、コンバージョンするかを確かめる検証。
もう一つは、「デモ動画作成」です。こちらも動画だけを先んじてインターネット上に広告として出して、マーケティング効果を検証します。

また、こんな泥臭いやり方でやるんだと言われるのが、次以降の3番と4番です。
まず3番の「コンシェルジュ」は、サービス価値を”自力で手を動かして提供”し、ユーザーの反応を検証します。そして4番の「オズの魔法使い」は、UIは完成版のイメージで、UIの裏側で”自力で手を動かして提供”し、ユーザーの反応を検証します。
この時、何の価値を検証したいのかが明瞭でないと、失敗しやすいです。

あとの二つは、「クラウドファンディング」と、「プロトタイプ開発」です。
クラウドファンディングについては、マーケの施策をしながら実際作ってみて、これくらいまで売れないと、世の中に出せないなみたいなことを検証する場合に最適です。プロダクト開発のスクラッチに関しては、一番お金と時間がかかります。

MVPの作り方のポイントとしては、以下の図の通りです。

MVPはリソースをあまりかけずに、行うことがポイントです。そもそものMVPの価値は「大きな無駄を出さないこと」です。お金をかけなくてもできるし、実際かけてもらえないのが実態です。新規事業開発は、経験値が人によってまばらなので、このキャンバスのように常に、わかっておかなければいけないことが何かを可視化することがすごく大事です。

MVP作成の実例

ここからは、私が直近メンタルヘルス事業のMVPをどのように回したかというのをお伝えします。

まず顧客の存在です。
顧客の存在自体はMVPの中で、コミュニケーションを通じて解像度が上がっていきました。MVPでここを検証したというより結果的にわかってきたことです。MVPを通じて、以下の色付けをした場所に引き合いがあるということが少しずつ分かってきました。

さらに検証していくことで、スタートアップの経営企画・事業企画・人事をそれぞれ上場企業と非上場で切ったときに、色がついている部分にニーズがあるということがわかってきて、徐々にセグメントの解像度が上がりました。

価値の証明は、「モックアップ」と「競合ツールの活用」で行いました。
マーケティングに関しては、ほぼ代理店を活用し、人事やコーポレート系の詳細を持ってる代理店の方々に、何か人的資本絡みの話で1枚ビラ置いてきてくれないか、興味があったら連絡してほしいという活動をお願いし、対象者がどれぐらいいたか、いたところからどれぐらい問い合わせがあったかというのをCVRで検証しました。

事業性検証と営業戦略構築の両立アプローチとは

事業性検証と営業戦略の構築を両立するということは、結局のところ、MVPを通じてマーケティングの可能性を探るということになります。
営業をする上でターゲットのセグメントが判明していないと、砂漠で前に進むような話になるので、まずここをしっかり固めに行くことが大事です。
その上で考え方としては、この三角形になります。

業界が定まっていない場合は、どこの業界に行くか、つまりどの業界で価値が出せそうか、といったことを調べます。
業界を絞った後に、今度は自社のサービスが提案できる場所はどこなのか、といったように業界を絞り、大体のターゲットを定量定性で決めて、その後にこの業界の中でもこの〜〜社だな、と選んでいきます。

その次が、優先順位づけです。その中でも特に刺さりそうなところです。これは個社の情報を見に行く必要があります。
例えば、IR情報等を見て、優先順位をつけていきます。今度実際提案をし、提案するときは直近のニュース等を見て深掘りしたり、トップメッセージを確認したりすることがとても大事になります。

営業のときに大変重要なのが、①お客さまの課題を聞きたい際に、そもそも私達に課題を話していただけるだけの信頼があるのかということが、一番最初のハードルになります。
その上で、②お客さまの課題を明らかにし、③お客さま自身もそこに課題があると認識していただいて、「このサービスを試してみたい」となる状態を目指し、この営業プロセスをどれだけ回せるかということが重要になります。

プロジェクト企画活動戦略というものは、その活動の主体がいて、その人は何らかの目的で動いていて、その目的を達成するためのゴールがあって、そのゴールに対して今どれくらいの水準にいて、その水準とボールがどれくらい離れていて、離れている理由は何なのかというのがあって、この離れている理由を解決するためにアプローチがあります。

戦略と言われるものは大体こういう形で描かれているので、これを基に、お客さまは誰なのか、お客さまは何がしたいのか、何を目指しているのか。今どんな状況なのか。目指しているゴールに対して、今どれくらい離れているのか、客観的になんで離れているのかよく話題になりますが、これらの問題と課題を間違えないようにする必要があります。

またそれ以外に大事なのは、外部環境変化がお客さまに対してどういう影響を与えるかです。こういった外部環境変化をもとに、SWOT分析等を使って、お客さまの強み弱みを可視化して、壁打ちをしながら検証していくのが大事だと思います。
営業でお客さまと向き合うときに大切なことは、調べてわかることとわからないことがあることを知っておくことです。

つまり、ギャップや課題の部分はお客さまと話してみないとわからないので、営業プロセスでコミュニケーションを通じて課題を引き出すということが必要になっていきます。

顕在的な課題と潜在的な課題営業するときに、顕在的な課題というのは調べればわかりますが、潜在的なものは分析結果によって変わってくるものがあるので、『顕在化情報』と『潜在的情報』の2点をきちんと見ておく必要があります。

MVPで、価値を検証する際、課題に答えているケースは少ないです。実際は自分の課題や自社の課題を正しく把握するのは、高度なことです。
そのため、お客さまが言っていることは、もしかしたらギャップの話をしているのではないか、そもそもどこを目指していて、今どういう状態なのかを聞いた上で、ギャップを明らかにし、課題の背景を聞きます。
この時のポイントは、今MVPを進めていて、他に興味を示している企業の方々の課題例を言えるようにしておくことです。

次回の最終回では、この5回で育ててきたアイディアをどのように稟議で通していくのかを、お伝えします。