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#新規事業開発 2023/7/12更新

「それ、うちがやる意義は?」を突破するマインドと行動戦略 実践!「トライアングル・リサーチ」で前に進める新規事業開発 vol.5

実践!「トライアングル・リサーチ」で前に進める新規事業開発 vol.5 実践!「トライアングル・リサーチ」で前に進める新規事業開発 vol.5

事業会社における新規事業開発を着実に前進させる武器としてのリサーチスキルを全5回でご紹介する本シリーズ。

前回は事業性の検証と営業の行い方をお話しました。
最終回となる今回は、社内稟議を通すための新規事業開発担当者のマインド・行動戦略についてお話します。

Speaker

石森 宏茂 氏

石森 宏茂 氏

株式会社coto design 代表取締役

新卒で株式会社ベネッセコーポレーション入社。法人営業、営業企画、経営企画、国内外の事業開発、M&A検討等に従事。2021年4月株式会社coto design創業。上場企業・スタートアップ企業・高等教育機関・NPO法人等に、新規事業開発伴走支援・経営戦略・事業戦略・営業戦略立案支援を提供。並行して、複数のスタートアップ企業に会社員として所属するパラレルワーカー。NewsPicksエキスパート。

事業開発における新規事業開発の構造的問題の理解

本日は新規事業開発の構造的問題と、それらを突破するための担当者のマインド・行動についてお伝えしたいと思います。

事業会社でよくある新規事業の推進を阻む要因
まずは構造的問題についてです。事業会社で新規事業の推進を阻む事象としては、以下のような点がよく挙げられます。

例えば「速さ」。大きな企業ほど、会社の中で使えるツールが決まっていて、新しいチャレンジや他社の方とコミュニケーションにコストがかかります。稟議も同様です。気がつくと、稟議書作成のために考えを巡らせていたり、度重なる稟議で結局着手が遅くなってしまったりという事象も起こり得ます。

続いて、「柔軟性」について。新規事業は事業成長の手段なので、事業規模やスケジュールは必要です。しかし、既存事業との兼ね合いの中でルールや評価基準が決まっていると、事業開発の幅としてのポテンシャルをなくしてしまうこともあります。

そして、失敗前提の新規事業にもかかわらず、失敗自体を評価をされないことや、その後のキャリア構築の難しさなどから「意欲」面でも障壁があります。

これら障壁の要因を構造化すると、大きく以下の3点になります。

  1. そもそも新規事業をどのように取り組むかという会社としての全体戦略や方針が無いこと
  2. 既存事業の延長で物事を考え、進めようとすること
  3. 新規事業を進めるための仕組みや制度が未整備であること

加えて、新規事業が何かという特性理解がないこと。
この理由を理解するためには、新規事業と既存事業の事業運営上の違いを押さえておく必要があります。

新規事業と既存事業の違い

上の図は新規事業と既存事業を比較した表ですが、条件が同じものはほぼありません。

例えば、「顧客やマーケット」。新規事業はこれから顧客やマーケットを探すので、推進途中でも本当にその人たちがお客さまかどうかわかりません。
他にも、明日お金が生まれるわけないので「時間軸」として中長期的な目線が必要だったり、将来の精緻な予測ができないので経営の意思決定として「予算・リターン」が配賦しづらかったりします。また新規事業なので、前提となる「情報やデータ」が必ずしもあるとは限りません。

そして中でも一番重要なポイントは「不確実性」です。新規事業は不確実性が非常に高いです。もちろん既存事業も不確実性が高い時代に入っていますが、新規事業と比べたら、比較的低いと思います。つまり、新規事業と既存事業は条件が違うのに、評価基準が同じという点が、色々な障壁を生み出していると言えます。

それではなぜ、新規事業を既存事業の延長線で考えてしまうのでしょうか。
この原因の一つは、現場の社員の皆さんも、決裁者も、評価者の経営者や事業責任者も、新規事業開発の経験が不足していることにあります。

新規事業における問題をブレイクダウンすると圧倒的な経験者不足であることがわかります。そして、その課題に向き合うためには、①新規事業としての戦略、②新規事業としての組織をきちんと作り、③新規事業の仕組みや制度を整備することが必要です。

さらに、①〜③に加え新規事業開発が何であるかという特性の理解がない限り、新規事業開発は難しいと思います。しかし、この現状は変えられない変数なので、いち担当者として向き合っていくしかありません。

事業会社における新規事業開発担当者のマインドと行動戦略

ここからは、事業会社における新規事業開発担当者のマインドと行動戦略についてお話します。

担当者がやるべきことは、大きく分けると2つです。
まずは①どうやって多くの人たちを巻き込んでいくかということ。もう一つは、②巻き込んだ結果、ルールをどうやって作っていくか、ということです。具体的に何をすべきかという、いち担当者としての行動戦略は以下になります。

Point① 巻き込み/期待値コントロール
まず、巻き込みに関しては、巻き込むという行動と同時に、期待値コントロールという能力を担当者としてしっかり身につける必要があります。相手にどれくらい期待をするのか、正しくチューニングする行為が必要です。

また、リーダーと呼ばれる人たちに“べき論”を求めないこともとても重要です。
新規事業開発を前に進めることにおいては、“べき論”を求めても、何も進まないのが事実なため、どのようにして経営者や決裁者たちをうまく巻き込めるか、巻き込むのか。ここを考える必要があります。
極論、巻き込む側として理解しておくべきことは社内政治です。しょうもないことと感じるかもしれませんが、全ては新規事業開発を前に進めるための一点に尽きます。

ここまで話すと、面倒くさいな、やりたくないなと思う方が多いと思います。しかし、それが当たり前であって、むしろそこまでしてでも本当にやりたい、と考えているのか、その点が最も重要です。

それはどういうことかというと、いち担当者として、マネージャーとして新規事業開発を進めるのは、会社の中の誰よりも難しい仕事をしています。新規事業開発は、ビジネスの総合格闘技と表現する人もいますが、本当に難しく、孤独な戦いになりやすいです。だからこそチームになる必要がありますし、どのようにしてこの組織構造の中でうまくコミュニケーションを取っていくかということがとても重要になります。

Point② ルール作り
あとはルール化することです。結局、不確実性が高いこと、そして、時間がかかることを前提としたとき、障害となるものを取り除いていく必要があります。

例えば承認プロセスにおいては、目的と目標にしっかりマイルストーンを置いて、〇〇な理由から、これくらいの頻度で報告をしていこう。何かあったら声をかけてくださいと一番最初に握りにいくことが重要です。

また、予算の持ち方や予算の置き方も大事です。難易度はとても高いのですが、ピボットが前提となる新規事業開発では、ある程度自由度のある予算の持ち方をコミュニケーションで確保することもテクニックになります。

あとは評価制度です。業務特性に合った評価基準で人事評価がなされないと、メンバーの退職にもつながりかねません。

前述した通り、新規事業開発には様々な壁があるので、壁を乗り越えていくために必要なマインドがあるかないかにかかっているというのは間違いありません。

結局、マインドで一番大事なのは、自分がFounder、または事業担当者として本気で「これだ!」「これをやるんだ!」と思えること。その気持ちがないと、この壁は突破できないと思います。

私自身の過去の経験を振り返っても、制約条件を突破してでもやりたいことなのかそうじゃないのかは問うべきだと感じています。行動はどちらかというと枝葉の話です。
前提として、「これは本当にこの会社で自分が成し遂げたい」という強いマインドがないと、事実として高い壁は破れないと思います。

また、上記のように強いマインド無しでは実現できない新規事業開発だからこそ、自分自身への期待値を客観的に理解することがとても重要だと感じています。どのような仕事でもこのような側面はあると思いますが、新規事業立ち上げも、正直ストレスがすごく溜まることもあります。私はこれが引き金になって退職を経験していますので、それを防ぐには、自分がどれくらいできるのか、やれそうかという自分への期待値をチューニングする能力を同時に上げていくことの大切さを実感しています。

さいごに

これまで『実践!「トライアングル・リサーチ」で前に進める新規事業開発』をご覧いただいた皆さま、お付き合いありがとうございました。

ここまでお伝えした内容は、特に正解というわけではなく、あくまで「思考の起点」と捉えていただき、各社・各ご担当者の状況に合わせて、「個社ローカライズしていただく」ことを前提にお伝えしています。
本セミナーで、vol.1の冒頭よりお伝えしている「わらしべ長者理論」を軸に、新規事業という活動に対して、ピボットしながら「完成なき永遠のベータ版」として事業推進いただければ幸いです。

新規事業開発は、もはや、会社をひとつ創る起業と、ほぼ同じと捉えて良いと考えています。
既存事業のPLの中で動く「新商品・新サービス開発」とは似て非なるものです。また、「新規事業開発はビジネスの総合格闘技」と称する人も多く存在するほど、難易度も当然高いものです。

しかしながら、今回お話しした通り、日本のこれまでの産業構造や高度経済成長期の延長線にある現在の社会構造を背景に、「新規事業開発の経験者」は、経営者や決裁者レイヤーの担当者も含めて、圧倒的に不足しています。

本セミナーを担当させていただいた私自身は、事業会社勤めで新規事業を担当していた時は、正直、基本のキも分かっておらず、ただただがむしゃらに、ともすると、言われるがままに、ひたすら「非効率的に」努力をしていました。

その「非効率さ」を解決してくれるひとつが、データ・コンテンツ・ナレッジです。
情報を武器に変える、というのは、「過去(データ・コンテンツ)」と、「今(ナレッジ)」から、『未来を予測する』ということです。

自分たちより先に、失敗をした人たちがいる。その情報がある。
自分たちが知らないことを、知っている人がいる。その情報がある。
それらを武器に変えることが、「非効率さ」を解消していく、ひとつの近道です。
情報を武器にする、ということは『同じ轍を踏まない』ということに繋がるのだと思います。

そして、その活動を支えるのは、新規事業開発担当者・責任者がもつ創業者・創業メンバーとしての『視座・視野・視点』、そして、『圧倒的な熱量』です。

その熱量は、Problem Founder Fit、つまり『創業者として、その顧客課題を解決したい、と熱狂的に思えているか』です。事業会社を主語にしつつも、創業者・創業メンバーとしての主語を持ち、「私はどうしたいか」という強烈な意志を持って、新規事業に向き合うことが大切なことだと思います。

新規事業開発は、大変なことも多いですが、未知の道をつくるワクワクドキドキで溢れています。またどこかで、皆さまが楽しく新規事業開発に向き合われている日々に出会えることを楽しみにしております。
最後までご覧いただき、本当にありがとうございました。

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