事業づくりの「見えない壁」を突破する Part5 計画策定のためのターゲット市場の市場規模推計
これまでの記事では、事業づくりで誰もが直面するさまざまな壁の中でも、機会探索の進め方に関するリサーチ方法を紹介してきました。
最後にPart5では、新規事業の機会探索を行った後に求められる、計画策定のためのターゲット市場の規模推定について解説していきます。
Part1:事業づくりを前に進める!6つの「わからない」を解剖する
Part2:事業機会が「どこにあるかわからない」を突破する
Part3:専門家の知見を用いた新規事業の機会探索
Part4:専門家の声を意思決定に活かす方法
Part5:計画策定のためのターゲット市場の市場規模推計 ← 本編はここ
前回までのまとめ
はじめに、実際にリサーチを行っている想定シーンのおさらいです。
【置かれている状況】
今年4月から中計のコアである新規事業創出を任された若手の中川。
長年、リサイクルにおける流通の効率化に従事してきたが、外部環境変化のなかで事業成長を図るには、非連続な成長を生み出すことは必至。
役員からは、「昨今注目されているケミカルリサイクル、素材のサーキュラーエコノミーのバリューチェーン全体から新たな事業を考えよ」と言われたものの・・・
どこに事業機会があり、その中でもどこにインパクトがあるかまったくわからない状況。
果たして、中川は会社の命運を握る新規事業を生み出すことはできるのか。
【実際に調査する2つのケース】
CASE1:新規事業の機会探索 (素材・化学業界を想定)
CASE2:計画策定のためのターゲット市場の市場規模推定 ←今回はこちらを解説します。
最後のPart5では、知りたい情報が「どこにもない」状態の乗り越え方を解説します。
こうした状況は、例えばニッチな市場や特定のセグメントでの市場規模推計において、頻繁に発生します。
今回は、市場規模算出において「多少なりとも根拠がある変数を仮定できない」という課題を想定し、リサーチの実例とともにその解決方法を解説します。
テーマは、プラスチック関連市場の中での、カーボンニュートラル素材の市場規模です。
進め方としては、まずSPEEDAなどのデスクトップリサーチを用いて、市場全体の規模感を捉え、それからエキスパートの見解を活用したリサーチで細かい変数の確からしさを調査・検証していきます。
代表的な市場規模算出の手法には以下のようなものがありますが、その中でも今回は「トップダウンアプローチ」を採用します。サイズの大きい市場規模を把握し、その構成要素の比率を掛け合わせることで、自分の欲しい市場規模を算出していきます。
この手法は、新興市場やニッチ市場など、情報がない市場規模に対して、簡易的にあたりをつけていくときに有用です。
はじめにSPEEDAを使い、デスクトップリサーチでプラスチック関連の市場構造を把握しました。
この調査でわかったことは、市場構造とサイズの大きい各市場の規模です。
そして、重要な「わからない」「存在しない」ことがわかった点としては、以下の2点です。
- 【狙うべきターゲット市場】エンドユーザー側のどの市場をターゲットとして、事業アイデアの絞り込みや精緻化を行っていけば良いか?
- 【存在しない情報】「エンドユーザー側の用途別プラスチック関連市場において、どの程度カーボンニュートラル素材に転換するか?」
複数のエキスパートから知見を集める/情報整理のポイント
次にFLASH Opinionを活用して、「存在しない」情報に関する以下の質問をエキスパートに問いかけました。
質問におけるポイントは以下のとおりです。
①どのエンドユーザー業界が有望かわからないため、CN素材への置き換えが有力視される業界の列挙をリクエスト。
②この段階では、複数業界に絞れれば良いため、対象者をエンドユーザー側ではなく、川上の素材メーカーや加工品メーカー側とする。
③ない数字(正確な算出が難しい数字)に関しては、おおよその比率をエキスパートに経験ベースで伺うことで裏付け=エビデンスとする。
今回のリサーチでは、カーボンニュートラル(CN)素材への置き換えが有力視される業界と、その業界における今後の素材移行比率の見立ての獲得を目的としています。
結果、質問投稿から24時間後にここでは6名から、2,100字の回答を収集できました。
集めた回答を整理すると、以下のようなことがわかりました。
有力な業界が見えてくるだけでなく、その背景や今後の見立てとセットで知見を獲得できるため、CASE1の新規事業の機会探索と同様に、このあと自社の状況と照らし合わせて、ターゲット市場の絞り込みや事業の仮説を考える際や、社内での合意形成や意思決定を進める際にも、大きな材料となり得ます。
ここまででわかったことから、市場規模の試算手法を使えば、知りたい情報が「どこにもない」の壁を突破し、リサーチや仮説を前に進めることができるはずです。
CASE2:市場規模推計 (どこにも情報がない)のまとめは以下のとおりです。
SPEEDAなどのデスクトップリサーチでは、情報が存在する大きな市場規模を調べることができます。
しかし、ニッチ領域や新興市場など、セグメントを絞った本当に知りたい市場の規模は出てこない場合が多いです。
そこで、SPEEDAなどで得た大きな市場規模に、どのような変数を加えて、知りたい市場の規模を算出するかを定めましょう。その上で、どこにも情報がない変数を、エキスパートの知見を活用して仮定していきます。
今回利用したFLASH Opinionでは、エキスパートによる市場規模の予想値や、推計ロジックや、シェア比率の知見、5年以内の成長率見込み、考慮すべき成長トレンドやリスクといった知見を得ることができました。
また、今回のように市場規模推計のリサーチを進める上で、次に進む際、推計の確からしさを高めるためのポイントは次の2点です。
1つは、複数のアプローチを用いて、大きなずれがないか確認すること。
もう1つは、エキスパートの知見も踏まえ推計した市場規模を、最後にエキスパートに添削してもらうことです。
さいごに
知りたいことについてSPEEDAの各機能を活用いただくことで、
・情報が玉石混交に存在し、「どこに焦点を当てて調べるべきかわからない」
・調べても調べても「どこにも情報がない」
という2つの「見えない壁」を突破し、事業づくりを前に進めることができました。
今回ご紹介した「見えない壁」のように、何から手をつければ良いか判然としない状況は起こりやすく、限られたリソースの中、自分たちではなかなか突破口を見つけ出せないことがあります。
具体的な調査事項が固まる前段階でも、ぜひお気軽にご相談ください。